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修了生からのメッセージ

鹿田あゆみさん
◆ プロフィール
  • 2003年3月 大阪市立大学法学部卒業
  • 2008年3月 大阪大学大学院高等司法研究科(未修者コース)修了
  • 2008年9月 司法試験合格
  • 2009年12月 司法修習終了(新62期)
  • 2010年1月 徳島地方裁判所判事補(民事事件の左陪席を1年3か月担当した後、刑事事件の左陪席と少年事件を2年間担当)
  • 2013年4月 弁護士職務経験制度により東京パブリック法律事務所に勤務
  • 2015年4月 東京地方裁判所判事補(民事第20部破産・再生部在籍)
  • 2017年4月 熊本地方裁判所判事補(民事単独事件、合議事件の右陪席を担当)
  • 2020年4月 静岡地方裁判所判事(民事単独事件、合議事件の右陪席を担当)
◆ 今の仕事のやりがいについて教えてください。
 現在、民事事件の単独事件を経験して6年目になります。(*裁判官に任官すると、任官後5年間は、単独で訴訟事件を担当することができないため、合議事件の左陪席として経験を積み、6年目以降、特例判事補として単独で訴訟事件を担当することができるようになります。)
 民事訴訟事件において、裁判官は、判決等、事件の終局段階で最終判断を行うことはもちろん、事件の終局に向けて、積極的に争点整理を行いながら進行を管理する役割を担います。具体的には、当事者に対し、適切に釈明権を行使し、主張と証拠を整理した上、争点に関連する主張や証拠の提出を当事者に促す(簡単に言うと、その事件で争いの中心となっている点が何かを見極めるために当事者の主張を交通整理し、争いのある点について、当事者の主張を裏付ける証拠を提出させる)仕事をしており、訴訟のマネジメントを行うことも重要な仕事の一つです。事件の早い段階で争点を見極めて、当事者に主張や立証を促すことにより、早期の段階で和解をすることができる等、事件の迅速な解決を図ることが出来ます。
 事件の早期の段階で和解ができると非常に嬉しいですし、その分やりがいも感じます。もちろん、難しい事件では、争点整理に時間を要してしまうこともありますが、その中でも、主要な争点は何か、当事者が拘っている点についてどう判断するのが適切か等を考えながら、事件を進めていくことは、大変な面もありますが、やりがいでもあります。難しい事件について、最終的に当事者を説得して和解が成立した時には、喜びも一入で、よりやりがいを感じられる時です。
◆ 裁判官「になること」、「であること」の面白さについて教えてください。
 裁判官になることの面白さは、様々な事件や仕事を経験できることだと思います。私の経歴をご覧いただければ分かると思いますが、最初の5年間で、民事事件、刑事事件、少年事件を担当し、弁護士の仕事も経験しています。他にも、省庁への出向や、訟務検事として国の訴訟代理人を務める裁判官、法律の作成を担当する裁判官等、多くの職種で活躍している裁判官がおり、希望すれば様々な仕事が経験できますし、留学制度も充実しています。そういった点で、裁判官になることは面白いと思います。また、人それぞれですが、約3年に1回、転勤があることも面白いです。色々な場所で生活することは非常に楽しいですし、3年に1回、仕事がリセットされ、新しい仕事を行うことが出来るのも面白さの一つです。
 裁判官であることの面白さは、やはり、法と良心に従い、独立して職権を行うことでしょう。私も弁護士を2年間経験しましたが、弁護士である以上、常に依頼者の立場に立ち、依頼者の利益になるように仕事をする必要がありました。裁判官は、独立していますので、自分の判断で結論を出すことが出来ます。合議事件においても、裁判長や事件を担当する主任裁判官と立場は同等で、どのような結論を出すのか自分の意見を言うことが出来、賛同を得られれば自分の意見で結論が出ることも出来ます。もちろん、決して独善的になってはならず、判断についての責任も重いですが、自分の判断で訴訟を進行し、結論を出すことは面白いと思います。
◆ 熊本地裁時代の国家賠償請求事件について、できる範囲でお話しいただけますか?
 熊本地裁で勤務をしていた際、ハンセン病患者の家族がらい予防法に基づく国のハンセン病患者に対する隔離政策により、家族間の交流を阻害し、家族に対する差別や偏見を助長したとして、国に損害賠償請求を求めた国家賠償請求事件(いわゆるハンセン病家族訴訟)の右陪席裁判官を務めました。原告数は500名を超えており、被害の実態を聞くために多くの方の本人尋問を実施し、宮古南静園(宮古島にあるハンセン病療養施設)で所在尋問を行ったこともありました。家族と強制的に隔離され、偏見や差別により耐え難い経験をされてきた原告の話に胸が痛くなることも何度もありました。判決をするにあたり、大きく問題となったのが国の不作為の違法と消滅時効の点でした。最高裁判決に反しないよう、多くの評釈や裁判例を調査し、何カ月にも渡り議論を重ねました。詳細については、判決を読んで頂ければと思いますが、得難い経験をすることができたと思っております。
◆ その他、印象に残っている事件がありましたら支障のない範囲でお聞かせください。
 特にどの事件が印象的ということはありませんが、複雑な家族関係を巡る裁判で、判決をした後に、当事者から、判決の内容を今後の生きがいにしていきたいと伝えられたことや、和解が成立した席上で、当事者から感謝の手紙を読んで頂いたこと等が印象に残っています。裁判官は、事件が終局した後に、代理人のように依頼者から感謝の気持ちを伝えられる場面はあまりありませんが、間接的にでも感謝の気持ちを伝えられると、頑張った甲斐があったと嬉しくなります。
◆ 同期の方や先輩・後輩との職域を超えたつながりが今もありますか?
 同期の弁護士やLSで教えて頂いた先生方とは現在でも交流があります。裁判官に任官後、大阪を離れてしまい、交流できる機会は少ないですが、共に勉強をしてきた同期や先生方とお会いできる機会はとても大切にしています。
◆ LSでの思い出やエピソードなどについてお聞かせください。
 LSでは、とにかく良く勉強しました(笑)。特に、LS3年次の時は、人生の中で一番勉強したのではないかと思います。大阪大学は、自習室が充実しており、常に学生が勉強していましたので、自習室に行くと自然と勉強ができました。司法試験の直前に、先生方から栄養ドリンク等の差し入れを頂いたことが良い思い出です。また、同期と夜遅くまで多くの議論をしたことが後記のとおり、今の仕事に活かされています。
◆ LSでの学びが今の仕事に活かされているか、後輩へのメッセージをお願いします。
 法律家として仕事をしていく上で重要な能力として、法的素養(法律の知識)だけではなく、法的思考力(当事者の主張を論理的に整理する力)とそれを表現する能力があると思います。
 LSの授業では、ソクラテスメソッドが多く採用され、教授方からの質問への回答に窮する場面が多くあると思います。私も、当初は、回答に窮し、悩む場面も多くありましたが、事前に授業の準備をし、同期と議論をすることで対応することができました。また、同期と議論をする中で、自分の考えの矛盾点等についても気が付くことができ、考えが矛盾しないよう、さらに、勉強をするようになりました。このように、同期とよく議論し、授業の中で積極的に回答することにより、法的思考力が醸成されていったと考えております。また、議論をすることにより、どのように表現すれば相手にわかりやすく伝わるかといった表現力も身についていったと考えております。今でも、代理人の方々や合議事件においては合議体のメンバーと良く議論をしますが、LSでの経験があるからこそ、今の自分があると思います。
 最後に、現在、司法のデジタル化が進められており、民事裁判のみならず、刑事裁判や家事事件についてもデジタル化に向けた変革期にあると思います。変革期においては、若い皆さんの柔軟な発想がより必要とされますし、皆さんが活躍できるチャンスが多くあると思います。LS在籍中に、良く学び、良く議論して様々なことを吸収し、司法の世界に飛び込んで来ていただければと思います。
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