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司法試験合格者体験談

2021年 合格者体験談

杉浦一輝「Plus Ultra!!~合格の更に向こうへ~」

1.はじめに
 合格体験記なのに、なぜ合格の更にその先を話すのか。回りくどいように思えますが、実はこれが合格への近道となるのです。
 司法試験は、法曹になるための試験です。したがって、その目的は、「法曹となろうとする者に必要な学識およびその応用能力を有するかどうかを判定すること」にあります。法曹にとって必要な能力とは何か。同じく法律の学識を有する法学者と何が違うのか。私は、これを「バランス力」であると考えています。法学者と異なり、法曹は幅広い法分野の知識をバランスよく有していることが必要です。また、理論的な解決と依頼者の利益との落としどころを探るバランス感覚が必要となる場面もあります。このように、法曹はあらゆる場面で「バランス力」が求められます。そして、この力を測ることが、司法試験の目的なのです。
 といっても、司法試験ですべての「バランス力」が測れるわけではありません。そこで、以下では試験に直接関係する3つのバランスに絞ってお話します。

2.8科目のバランス
 司法試験は、基本7法+選択科目の8科目の「総合点」で決まります。これは、どれかの法分野に特化していれば良いというわけではなく、「どの分野でも一定の水準を備えている」ということが求められているわけです。といっても、求められる水準はそれほど高くありません。「全科目」で平均点(受験者のほとんどができるライン)が獲れれば確実に合格できます。
 簡単なように思えますが、全科目を平均点で揃えるのはかなり大変です。自分の苦手科目・苦手分野をしっかり把握し、穴を埋める努力が必要です。苦手なこと・できないことに向き合うのは辛いですが、これを乗り越えれば合格に大きく近づきます。8科目をバランスよく伸ばせるように頑張ってください。

3.インプットとアウトプットのバランス
 司法試験で評価対象となるのは、「答案」のみです。理解して表現するまでに至った過程・努力は、一切評価されません。どんなに頑張ってきたとしても、どんなに理解したつもりであっても、それを文章にできなければ無駄になってしまいます。試験勉強は自分の理解を「文章」の形で表現できる段階までできてはじめて完成する、ということを心得ておいてください。これがアウトプットです。
 他方、アウトプットは、十分な理解、すなわちインプットが適切にできていてはじめて意味があります。ただやみくもに答案を書けば上達するものではありません。アウトプットして出来上がった文章に不安があるのであれば、もう一度インプットに立ち返ってみましょう。
 このように、インプットとアウトプットは相乗効果をもたらします。どちらか一方ばかりになるのではなく、適切なバランスで行うよう努めてください。

4.勉強と遊びのバランス
 試験対策で「遊び」?と思われるかもしれませんが、1人でも友達とでも、家でゆっくり過ごすのでも外で体を動かすのでも、自分の好きな「遊び」をすることは、自分らしさを保つのに重要です。試験本番は非日常な雰囲気があり、イレギュラーなことばかり起きます。そんな状況下でベストを尽くすためには、本来の自分でいられることが大切です。試験直前であろうと、遊びたいときはしっかり遊び、普段通りの自分で試験に臨んでください。
 また、豊かな経験は多様な見方を与えてくれます。司法試験は事例問題であり、さまざまな視点から分析することが求められますから、多様な見方を持っておくことは有益です。いろいろな「遊び」を通じて豊かな経験を積み、人として成熟した法曹を目指してください。
 司法試験は、勉強以外の一切を捨てなければ合格できないような試験ではありません。勉強と遊びを両立させることは、十分可能です。大切なことは、すべて「バランス」なのです。

5.バランスの取り方
 具体的にどうやってバランスを取るかは人それぞれですが、私なりのアドバイスを述べておきます。
 バランスを取るためにいきなり「中庸」を狙うと、大抵失敗します。その状態で得られるのは、「中途半端」な結果だけです。まずは、「やりすぎ」で臨むべきだと思います。遊びたいときは勉強を気にせずしっかり遊ぶ、他の科目が溜まっていても分からない科目があれば徹底的に調べる。そうしていると「偏り」が生じるので、偏りを感じたときに他方に配慮すれば良いのです。「最近インプットばかりだなぁ」と偏りを感じるのであれば、答案を書いてアウトプットしてください。一方に注力したら他方にも注力する。これを繰り返していけば、自然に「バランス感覚」が身につくはずです。

6.さいごに
 必死に1つのことに集中できるのは良いことですが、「バランス」を意識するのも大切であるということを述べてきました。
 ロースクールの中でも阪大はとても環境が良く、「ローヤーアカデミア」として素晴らしい場所だったと感じています。
 あとは、皆さん自身がどれだけ努力できるかにかかっています。
 過去を振り返って「なぜローヤーを目指すのか」という原点を再確認すれば、どんな辛いことがあっても乗り越えられるはずです。
 合格の更に向こうへ! Plus Ultra!!

長谷川泰昌「過去問は受験生を救う」

0.自己紹介
法科大学院修了年度:令和2年(平成31年度入学、既修)
受験回数:1回
選択科目:租税法

1.はじめに
 法科大学院での生活の心構えや予習復習の方法については他の合格者の方が執筆して下さると思うので、私の体験記では司法試験の過去問について中心に紹介したいと思います。
 ロースクール生の皆さんは、入試や期末試験ではその試験の過去問を検討し、出題傾向を掴んで対策を立てることが多いと思われます。これは最終目標である司法試験でも同じです。今の司法試験は、過去問を愚直に回した受験生が勝つものと私は考えています。

2.なぜ過去問が重要か
 理由は主に二つあります。一つ目は、総じて司法試験の問題はよく練られた良問であり、自分の知識やその運用能力を試すことが十分可能なことです。司法試験の問題を作成する考査委員には毎年、大学教授だけではなく裁判官・検察官・弁護士の法曹や法務省の官僚といった、実務の最前線で法令を運用する一流の実務家が何十人も加わっています。彼らが作成する問題は、単に条文や判例を知っているだけでは解答できず、その趣旨や立法事実に遡る必要があり、あてはめの際も自己の結論に有利不利問わず問題文の事実をとにかく拾って評価することが求められます。司法試験の過去問は、自分の能力の到達点を知り、更に高める教材としてうってつけといえます。
 二つ目は、近年の問題は過去問の「焼き増し」がみられ、過去問をやっていないとそれだけで他の受験生と差をつけられてしまうことです。令和元年の行政法では行政処分の違法性の承継の論点が出題されましたが、同論点は平成20年と28年と出題されています。また憲法の表現の自由のテーマについては、司法試験では令和元年と令和3年に、予備試験では令和2年と令和3年に連続して出題されており受験生は主たる論点に対して念入りに準備することが今後想定されます。会場で「これは○○年に出題された論点だな」と気付くことができれば、技術面及び精神面で大きなアドバンテージとなります。

3.過去問をどう使うか
(1)短答編
 短答式試験については、3科目(憲法民法刑法)と以前と比較して受験生の負担が軽くなりましたが、その分受験生全体のレベルも上がり、また問題も年々難しく複雑になっています。短答式で足切り(各科目の4割未満又は合格点未満)になると論文式の答案が一切採点されませんし、論文式で逆転することはかなり難しいことから、短答式試験で高得点を取って貯金を作ることが重要です(私は短答式で8割をマークしました)。
 短答式については、市販の問題集を何周も回す(問題を解く)ことがまず必須です。他の人から「何周やればいい?」とか「まだ2周しかしてない」という声を聞きますが、何周回したか数えきれないくらい回すことが重要です。また問題を解く時には、覚えている正答の肢や番号をそのまま覚えるのではなく、〇条の〇〇という記載から正しい、△という判例の判示に沿わないから誤りといったように解答の理由付けを頭の中で考えることが必要です。前者の方法では、未知の問題に対処できません。
 ただ、普段の講義の予習復習や論文対策でなかなか手が回らないことがあると思われます。そこで、予備試験の短答式試験やTKCの短答模試を受験し、試験前にまとめて回すことをお勧めします。前者は特にロースクールの講義で忙しく合格は難しいかもしれませんが、短答の勉強になりますし、合格できれば本試験と同じ会場(マイドームおおさか)で論文試験を受験することができます。これは司法試験のよい予行演習になると思います。
(2)論文編
 こちらがメインですが、論文式試験の過去問についてはできるだけ早く、かつスピーディーに取り組むことが重要です。今年の問題も含めれば、1科目だけで16問あり(民事系については若干異なりますが)、選択科目は倍の32問あります。全て取組めば出題される論点はほぼ網羅することができる一方、一日一問取り組んだとしても全問解き終わるまでに5ヶ月はかかる計算となります。
 そのため、過去問についてはできるだけ早い時期から取り組むことをお勧めします。2年生の夏季休暇や春期休暇、3年生の夏季休暇は比較的時間を取ることができると思うので、そこで集中してやるべきです。私は、 40分で答案構成をする(選択科目の場合は30分くらい)
→出題趣旨と採点実感を確認し、構成の筋が合っている確認
→高順位の再現答案を読み、どこをどのように書けば評価されるのか確認
→構成の際思い出せなかった知識を基本書や判例集等で確認する
という感じで取り組んでいました。ローライブラリーには市販の再現答案集が何冊か置いてあるので、コピーを取る等してどんどん使用しましょう(私も受験生時代ほぼ毎日使用していました)。
 3年生の方は、自主ゼミを組んで過去問の答案を作成し、お互いに添削し合うのがいいと思います。学生が書いた答案と再現答案を見比べることで、「この論点は落としたら他の受験生と差をつけられる」や「ここは書けなくても合否に影響しない」といった相場を養うことができます。可能であれば、感染症対策を十分行った上で、対面でゼミを行うのがいいと思います。
 なお市販の演習書についてですが、これは過去問を回した上で余力があればでいいと私は考えています。問題のレベルが違いますし、何より過去問で時間が一杯一杯になるので(司法試験の準備にかけられる時間は意外と多くありません)。

4.終わりに
 令和3年の阪大ロースクール全体の合格率は、残念ながら受験者全体の合格率を僅かに割っています。ロースクールの勉強だけしていても司法試験に必ずしも合格できないのが現状です。ですが、ロースクールの成績が仮に悪かったとしても、適切かつ有用な対策をきちんと行うことができれば司法試験には合格できると思っています。
 コロナ禍で勉強が思うように進まないこともあるかもしれませんが、過去問を活用して合格を勝ち取ることを祈念しています。頑張って下さい。
 最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

三橋和史『限られた時間でやり遂げる方法を意識する』

1.はじめに
 私は、法学既修者コースで学び、修了後1回目の受験で司法試験に合格することができましたが、他大学他学部出身で、入学までに銀行や県庁などで8年間の勤務経験を経ていました。入学後も、市議会議員としての職を持ち続け、その活動にも全力を投じながらの就学となりました。また、自宅は奈良市内にありましたので、通学時間も片道2時間程度かかっていました。
 そのため、主に、何らかの事情により確保できる学習時間が少ないという方や、学問から離れていた期間が長かった社会人経験者の方にとって、私の体験が少しでも参考になれば幸いです。

2.実際の勉強方法
(1)一日の流れ
 上記のとおり、確保できる学習時間が他の受験生よりも少ない状況を余儀なくされましたが、そうはいっても最低限の学習時間は確保する必要があります。
 私の場合は、一日の流れとしては、授業のある日の始まりは、1限目があるかどうかにかかわらず、早朝5時ころに起床して6時半ころの電車に乗り、8時半ころに学校に着くという流れでした。その後は授業に出席したり自習室で勉強したりして、18時ころに学校を出て20時ころに帰宅し、24時ころまでは仕事をするということが多かったです。
 授業のない日は、仕事や家事だけしかしないこともありましたが、遅れた分の学習は友人にノートを見せてもらったり、オンラインの録画を見返したりするなどの学習に必ず取り組むようにしていました。
(2)短答式問題
 電車に乗っている時間は、短答式の過去問集を解きつつ、それを基にして暗記をすることに充てていました。問題集を解いてその内容を理解する程度のことであればわざわざ机の前に座らなくとも取り組むことができる一方で、短答式問題といっても一つずつ解くには意外と時間がかかります。机の前に座ってじっくりと勉強することができる時間は貴重だったこともあり、短答式問題の勉強はなるべく移動時間に取り組むようにしていました。入学後の早期の段階から決まった時間に短答式問題に触れるという習慣を付けることで、司法試験本番前に短答式問題の対策に時間をとられることもなく、無用に不安になることも避けられると思います。移動時間中の取組みだけではどうしても分からない難解なものや知識を整理する必要のあるものが出てきたときは、後刻に机に向かって落ち着いて勉強するようにしました。
 そして、試験本番と同様に時間を測って取り組み始めたのは、その半年程度前からで、頻度は2週に1回程度です。私の場合は、憲法と刑法の解答には時間的に余裕があったものの、民法の解答には余裕がなくぎりぎりになる傾向があることが自覚できました。そこで、3箇月程度前からは民法に重きを置いて取り組むように意識しました。
 なお、憲法、民法、刑法以外の科目の短答式の過去問集についても入学後の早期の段階に解いたので、その知識を論文式問題に応用することができたと実感します。その意味で、短答式問題にはなるべく早期の段階で取り組み始めた方が体系的な理解に繋がり、論文式問題にも自信を持って臨むことができるようになると思います。
(3)論文式問題
 短答式問題については、ある程度の時間をかけさえすれば多くの方が確実に上達すると思います。これに対して、論文式問題については、必ずしも時間をかければかけるほど上達するというわけではないと思います。かなり多くの時間を費やしても成績が伸びなかったり、論述の仕方が上達しなかったりする場合は、それまでの勉強方法やその内容に根本的な問題があると認識した方がよいでしょう。
 私の場合は、もともと確保できる学習時間が限られていることもあって、量的な不足分は質を向上させて補うように心がけました。先生方や友人から助言をいただいて、定評のある教材や自身に適した参考書を見つけ、主に授業の内容に基づいて、教材の該当箇所をその都度確認するようにしていました。そして、科目ごとに一元化してデータで整理したオリジナルの資料を作成し、それに自分なりに司法試験に必要な情報だけを論証方法の形式で整理した内容を記載するなどして、繰り返し復習しました。
 その過程で、論文式問題は闇雲に勉強するのではなく、なすべき内容の勉強をしなければ全く成果に繋がらないということを私も身をもって経験しました。上記のようにして整理したオリジナルの資料に記載のある事項に関する問題についてはある程度は解けるのですが、その資料に記載のない事項に関して出題されればなかなか正解筋にたどり着けないというようなことが何度かありました。私はそれまで、自身の知らない「論点」に関する出題があっても、その場で検討して解答を導き出せばよいという程度にしか考えていなかったのですが、その考えは間違っていました。少し検討しただけではすぐには妥当な結論を導き出すことができないからこそいわゆる「論点」として取り上げられているのですから、少なくとも他の受験生も把握している「論点」については、自身も事前に理解しておかなければ、ましてや試験という限られた時間内で問題点を理解して適切に表現して解答するということは困難であるということを認識しました。
 勉強を続けてきて気付いたことは、私には周囲の受験生が知っていることを知らない事項が多いということでした。受験生に広く把握されている「論点」に関する出題がなされた場合だけでなく、仮に多くの受験生にとって未知の問題が出題されたとしても、その解答のために必要な前提となるべき基礎的な知識が欠落していたり曖昧であったりすれば、他の受験生に差を付けられてしまうことは当然のことだといえます。司法試験には未知の問題が出されるといわれていても、適切な解答を導き出すための前提となるべき知識は必要だという当たり前のことに気付いてからは、数回にわたって反復して授業の内容を振り返って丁寧に「論点」に当たる項目を拾っていき、上記のオリジナルの資料に追記を続けました。また、高等司法研究科における定期試験の過去問の内容は学生に提供されているので、その解説とともに読み込み、知識として欠落していた「論点」はその都度オリジナルの資料に追記していくという方法をとりました。
 このようにすることで、司法試験に必要な情報を一元化することができる上に、追記していく過程で必要な修正も加えて精度を高めていくことができ、何度も繰り返して「論点」に関する論証方法にも触れることができるので、正確な知識も定着するようになります。たしかに未知の問題に対しての応用力は重要ですが、あくまで「応用力」が必要なのであって、前提となるべき知識は当然ながら必要なのです。私に欠けていたのはその前提となる知識だったので、そのことに気付いて上記のように対策してからは論文式問題についても特に不安を抱くことはなくなりました。司法試験本番前の限られた時間も、主にこのオリジナルの資料の内容さえ完璧に理解して復習しておけば大丈夫だという自信にも繋がりました。未知の問題に出会った際にどのように解答すればよいのか分からないという多くの受験生も、実は応用力ではなく、その前提となるべき知識、基礎力が不足している場合が少なくないと思います。基礎力が身に付けば、多くの問題については問題文を読むだけで出題の趣旨をある程度は理解することができるようになるはずです。
 そして、最終的に感じたのは、受験生が把握しておくべきとされている「論点」は、必ずしも多くなかったということです。働きながらの私にとっても、他の受験生も押さえてくるであろう「論点」を網羅的に整理し、暗記する時間は十分にありました。
 学習成果が上がらないときに「忙しくて勉強する時間がない」ということは言い訳にせず、どのように時間を捻出するか、また、時間の足りない状況をどのように補完すべきかを検討してみてください。そして、司法試験本番までに残された時間は限られているということを常に意識し、闇雲に様々な問題集に手を出すのではなく、先生方の授業の内容を羅針盤のように信じて前へ進み、仲間と情報交換をしながら、司法試験対策として必要な情報を一元化したオリジナルの資料を作成し、それに沿って基礎力をしっかりと固めるという勉強方法をとってみてはいかがでしょうか。学習を開始した早期の段階で、オリジナルの資料は一定の完成度にもなってきますので、科目ごとに学習しなければならない総量も見えてくるという利点もあると思います。
(4)苦手科目の勉強
 例えば、私の場合は、入学の時点で会社法に関する知識が全くといってよいほどありませんでした。どのような教材で何を勉強すればよいのかさえ分からなかったのですが、独学で模索するには非効率的だった学習内容の設定も、主に先生の授業の内容に沿って、仲間と情報交換をして一緒に勉強を続けることで、司法試験の合格に直結する勉強にも効率的に取り組むことができたと思います。
 会社法については、授業の内容を自分自身が他の学生に説明をすることができるぐらいになるまで繰り返し復習し、上記のオリジナルの資料の内容も詳しめに作成するようにしていました。本来であれば基本書を通読するなどすることが望ましいのでしょうが、その時間的な余裕もなかったため、最低限のものとして授業の内容だけはしっかり学習しようと決意して実行したところ、結果として合格にも結び付きました。

3.社会人受験生としてのモチベーションの維持
 考え方や意識の仕方は人それぞれですが、勉強のモチベーションを維持するために私が意識していた考え方を具体的に紹介するとすれば、次のようなことです。
 社会人経験者の方には特に共感していただけると思いますが、社会に出て仕事に就けば少なくとも午前9時ころから午後6時ころまでというように、一日に7時間から9時間程度、あるいはそれ以上の時間にわたって勤務するという場合が多いと思います。それを踏まえて、目の前の勉強が自分自身の今の仕事であると思って、仕事と同じように集中して取り組めば、その時間も瞬く間に経過するように感じました。
 さらに、私は市議会議員としての職を持ちながらでしたが、今日ここで学んだことが明日の議会審議にも役に立つという実感もありましたし、実際に市政上の取組にも反映させることができたことも多くあったので、仕事の一環であると意識して勉強に取り組めば一日に何時間も勉強するということは当然のことで、全く苦痛になることもありませんでした。仕事中も、例えば行政法などは実務とも密接に関連する事項が多くあったので、実際に生じている行政上の課題についても、行政法上の理解ではどのように検討することになるのだろうかなどというように、自身の日常生活で触れる様々な社会事象について法的な思考で観察するように意識していました。仕事のために法律の勉強から1週間も離れてしまうと法的思考が鈍ったりすることもありますが、日常的にも意識することで継続して法的思考の訓練をすることができていたのかも知れません。
 また、入学前に学問から離れていた期間が長かったことで、他の学生の皆さんに付いていけないかも知れないという不安もありましたが、むしろ勉強できる環境にあることのありがたさを身に沁みて感じることができ、授業もその予復習も新鮮に思えて、寸暇を惜しむ姿勢で臨むことができました。

4.司法試験科目以外の分野
 受験生は、試験対策にこだわりすぎるあまり、司法試験科目以外の分野に関する事項について興味関心が薄れたり、意図的に関心を抱かないようにしてしまったりすることがあるかも知れません。
 しかし、私の周囲で試験でも優秀な成績を収めた学生の皆さんは、司法試験科目だけでなくそれ以外の分野も含めて、一切手を抜かずに積極的に取り組まれていた方が多かったように思います。私の場合では、「生命倫理と法」や「法社会学」、「少年法」、自身の選択科目ではない「国際公法」などの授業も履修していましたが、その予復習は他の科目と同程度に取り組みました。私の性格に照らすと、一つ手を抜くとあれもこれも手を抜いていってしまうように思ったので、科目にかかわらずしっかりと取り組み続けるという姿勢を維持するように努めました。いずれも興味深い内容で、市議会議員としての活動を通じても実感したことですが、法曹になった後にはこういった司法試験科目以外の分野に関する知見をも深めてこそ意義があると感じましたし、そういった姿勢が司法試験科目の勉強に対するモチベーションを維持することにも繋がったのではないかと思います。

5.終わりに
 私のとった勉強方法が唯一正しいものであるというわけではありませんが、限られた時間であっても、やり遂げるための適切な方法で取り組めば司法試験にも合格できるということは間違いありません。社会人の方も、勉強に出遅れてしまった方も、諦めることなく全力を尽くしてほしいと思います。
 単に合格という結果だけでなく、司法試験科目もそれ以外の分野も含めて、高等司法研究科で学ぶことができた経験は、私の人生にとってかけがえのない宝物となりました。支えてくださった先生方、先輩方、同期、後輩の皆さん、ありがとうございました。

司法試験合格体験報告会

本研究科では、学生委員会(学生のクラス代表で構成する組織)の企画・進行により、毎年9月に司法試験合格者体験報告会を開催しています。
今年度は、9月30日(木)13:30~15:30に開催しました。新型コロナによる感染対策のため、例年の形式とは異なり、3グループに分かれた参加者の座席を報告者が順番にまわる形で行いました。

司法試験合格体験報告会2021

司法試験合格体験報告会2021

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