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研究科長室より

自分の言葉で

2021/07/05

 619日に日弁連と法科大学院協会の共催で「法学未修者教育に関するシンポジウム」がオンラインで開かれました。このシンポジウムでは、法科大学院の教員から授業の実践例等について報告がありました。
 報告者は、東北大学の成瀬幸典教授(刑法)、北海道大学の池田清治教授(民法)、神戸大学の田中洋教授(民法、法文書作成)、一橋大学の只野雅人教授(憲法)の4人でした。
 各登壇者が共通して語っていたのは、未修1年次の授業を通して、予習や授業によって基礎知識をしっかりとインプットすることに加え、学んだ知識を自分の言葉で説明する(書く)力をしっかりと身につけてもらう必要がある、ということでした。基礎知識のインプットに関しては、身につけさせるべき「幹」を重視し、1年次では「枝葉」にはあえて触れず、それは「2年次以降に学べばよい」というメッセージを学生に伝えることの重要性も指摘されていました。自分の言葉で説明する、書く、ということに関しては、修了生(補助教員)による指導に期待する発言が多かったことが印象に残っています。
 未修者の中でも、とくに初めて法律を学ぶ人にとっては、「基本書を読め」とか、「この事項を予習せよ」とか言われても、そのやり方が分からない、という戸惑いがあるでしょう。そこで、中教審の法科大学院特別委員会が取りまとめた「法学未修者教育の充実について」においても、学修者本位の教育の実現が謳われています。未修者が何に躓いているのかを的確に把握し、学び方も含めて丁寧に指導することが必要だ、ということです。

 高等司法研究科においては、他学部出身者や社会人経験者を含む少人数のグループを弁護士アドバイザーが指導する再チャレンジ支援プログラムを行ってきました。また、個々の学生の学習状況を確認する場として、コンタクトティーチャーによる定期面談もあります。これらによって、個々の学生のニーズに応える学習指導の体制は整っています。このことが比較的高い未修者の司法試験合格率にも現れていると思っています。しかし、それでも直近修了生の合格率や累積合格率で見ると、既修者と未修者では大きな開きがあります。この差を埋める努力が我々教員に求められていることになります。
 課題は、学んだ知識を自分の言葉にして文章に書き、他人に説明できるようにすることです。この力を鍛えるには、まず双方向授業で学生に答えてもらう際に、単に資料や教材を読みあげるのではなく、端的に質問に答えるように促すことが必要です。自分の言葉で書く力を身につけてもらうには、答案の形で文章を書かせ、添削指導をする、あるいは学生同士で他の答案と自分の答案を比較検討させるという方法が有効です。これらは、私自身が自分の授業で実践していることですが、「自分の言葉で説明する」力が十分ではないのは、未修者だけではありません。入試の法律科目試験をパスして入学した既修の学生でも、丸暗記した論述パターンをそのまま書くことしかできない人が少なくないのです。
 自分が考えたことを的確に文章にする力は、法曹だけでなく、すべての社会人に求められます。その力を法科大学院在学中に身につけてほしい。そんな思いで毎年続けている添削指導ですが、これを受けた学生に赤を入れた修正点やコメントの意味がしっかり伝わっているだろうか。春~夏学期の期末試験も近づいてきたので、そんなことが気にかかっています。

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