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研究科長室より

新学期に際してのご挨拶

2023/04/03

 新学期のスタートは、大学に籍を置く者にとって、新しい生活のスタートの場合であれ、旧来の生活の再スタートの場合であれ、心を新たにしてnext stageに進むときに当たります。今年は桜が舞い散る中での新学期開始になりました。私はこれを新学期の開始に花を添える天からの贈り物と受け取りました。進級したばかりの在校生の皆さんにとっても、旧来の風景に華やかな彩りをもたらす門出の景色に見えたのではないかと想像しています。

 新入生の皆さんにとっては、この新学期がまさに新しい出発のための重要な起点になるといってよいと思います。皆さんが進学した法科大学院は、法曹養成のための専門職大学院であって、皆さんはここで単に法律を学ぶのではなく、職業のための法律学を専門的に学ぶことになります。本研究科は「新時代を担う、真のLegal Professionalsの育成」を教育理念に掲げていますが、それは、皆さんが法律学を学んだ先に「新時代を担う、真のLegal Professionals」の未来があると考えるからです。 

 しかし、法科大学院で法律学を学んだ先にあるのは、何よりもまず司法試験ではないかと思われた人もいるかもしれません。本研究科に進学したのは、そもそも司法試験に合格するためだという人もいるでしょうし、中には司法試験の受験資格を得るために、ここに来たに過ぎないと割り切っている人も、ひょっとしたらいらっしゃるかもしれません。法曹になるためには、司法試験に合格しなければなりませんから、皆さんが司法試験の合格を目指して勉強に励むこと自体は自然なことですし、それを応援する人はいても、それを咎める人はどこにもいません。 

 新入生の皆さんも、さすがに司法試験が法曹人生のゴールを意味するとは思っていないでしょうが、法科大学院生活の締め括りに位置すると思っている人は多いかもしれません。しかし、それではあまりにも寂しすぎるということもありますが、私は皆さんに法科大学院で学ぶ意義を、単純に受験勉強に励むことだとは考えて欲しくないと思っています。それは法科大学院のポテンシャルを過小評価することだと思っているからです。 

 先に申し上げたように、法科大学院は法曹養成のための専門職大学院です。ここでは志を同じくする仲間が法曹を目指して切磋琢磨しています。もちろん、同一の目標を持っているからといって、生き方や考え方まで同一というわけではないので、何らかの法律問題を取り上げて一緒に議論をすれば、だんだん意見が食い違っていって、違う結論にたどり着くかもしれません。議論を重ねれば重ねるほど、相違点ばかりが目立って、正解が分からなくなり途方に暮れることもあるでしょう。しかし、そうした混迷こそが法律論を鍛えてくれます。 

 その場合、意見の合わない人を突き放すのではなくて、法律論という同じ枠を守り、相手を説得しようと試行錯誤を繰り返すことで、自分の議論が洗練されていくのですし、相手の議論を理解し咀嚼する中で、自分の議論も修正され強化されていくのです。出来のよい法律論は、大抵、真剣なコミュニケーションの産物です。自分一人だけで考えるのではなくて、他者と会話を交わすことによって、自分の法律論も成長していきます。 

 法科大学院は皆さんに法律論を行う場を提供します。ここでは議論の相手を見つけることができます。議論は一人ではできません。勉強は確かに一人でするものですが、法律学の議論はひとりぼっちでやるものではありません。法科大学院で学ぶ期間はそれほど長いものではありませんが、志を同じくする仲間とともに法律論に浸ることができれば、充実した生活を送ることができるはずです。そのような学びが、法科大学院生活の先の、司法試験の受験をさらに超えた先にある、豊かな法曹人生に寄与するのです。皆さんには、受験勉強にとどまらない充実した法科大学院生活を送って欲しいと願っています。

   待兼池の桜

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