2025/08/19
8月になると、昔、私の師匠がこの時期のことを「夏期特別研究期間」と呼んでいたことを思い出します。師匠にとって、8月は夏休みではなく、研究に専念できるまとまった期間という認識だったのでしょう。せっかくの休暇を楽しむのではなく、研究に没頭する期間に充てるとは何とご立派なことと、驚嘆と唖然が相半ばする思いに襲われたものです。しかしあらためて今思えば、8月を目一杯研究に充てることができるなんて、当時は贅沢な環境があったのだなぁと感じるばかりです。当時と比較すれば、現在は校務も増えましたし、個人的には科長業務から逃れられないという宿命も抱えています。
科長業務の話を延々とすれば、どんどん愚痴っぽくなっていくので、ひとまず置かなければなりません。ただ、あえて言えば、科長業務は必ずしもストレスの大きいものばかりではないのです。中にはとても面白い科長業務もあります。例えば、8月8日に中之島センターで開催されたシンポジウム「営業秘密の保護・管理の行方」は、立場上、参加が期待されたがゆえに出席した行事でしたが、大変有意義でした。それだけでなく、本研究科に係わる教員や弁護士の先生方の専門的な議論に触れることができ、自分に身近な同僚の素晴らしさをあらためて認識することのできる楽しい行事でした。
また、大阪大学法学部同窓会に集めていただいた募金を原資に、2番講義室とL7教室にオンライン配信システムが設置されたことを記念する8月9日の式典(青雲会創立70周年記念銘板除幕式)も、とても感慨深い行事でした。本研究科の在学生であれば、L7教室の入り口上部に、創立70周年記念の文字が刻まれていることに気づいているでしょう。今回は高等司法研究科創立20周年も併せて記念するという趣旨も込めて、L7教室にも財政援助をいただきました。L7教室に備えられたecho360のおかげで、オンデマンドで授業のオンライン配信が実現しました。既にその恩恵を被っていることを今一度思い起こす必要があります。
教員にとって8月は、まず授業がなく、定例の会議も(ゼロにはなりませんが)ほとんどない月です。その意味で、少なくとも他の月と比較すると、教員は研究に専念しやすい環境にあります。私も、遅まきながら久しぶりに?研究論文と取り組むことができました。目の前に論文のテーマがあり、机の周りに先行業績が山積みになっているお膳立てがありながら、そこに着手できない現実は、もどかしいだけでなく、研究者人生の否定に繋がりかねない危機的状況であるとすら感じるものです。これはちょっと盛った言い方ですが、主観的にはいつもそういう気持ちでした。
他方、教員にとって8月は、論文執筆とは別に、もう1つ重要な仕事を抱え込む月です。それは言うまでもなく、期末試験の採点です(先生方の中には、司法試験の採点という人もいると思われます)。これも結構な難行苦行です。読めない文字との格闘という苦痛もありますし、理解できない文章の解読という難事業もあります。それもこれも教員の仕事ですから、愚痴をこぼしながらも懸命に対応しますが、研究テーマに関連する先行業績に目を通すときとは、知的満足感が全然違いますし、モチベーションの維持にはやはり苦労します。
採点しながら、せめてこちらの意図や趣旨を的確に読み取り、勉強して得た成果を正確に紙の上に余すことなく表現して欲しいと願うものの、おそらく答案を作成している側も決して手を抜いて書いているわけではないでしょうから、こちらの願いは永遠に叶いそうにありません。となると、せめてもの願いは、もうちょっと読める文字で書いて欲しいというところに帰着しそうです。CBT方式の導入が、この願いを叶えてくれるのだとすると、同方式の実施は、副次的効果として、採点する側のモチベーション維持に貢献すると期待してよいのかもしれません。