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研究科長室より

合格者と語り、合格者を祝う

2025/12/10

 司法試験の合格者発表(今年は1112日)が終われば、合格者は来春以降の司法修習に向けて、準備に奔走することになり、運悪く合格できなかった人は、来年度の司法試験に向けて、再挑戦の途(進路再考も含め)を模索することになります。法曹を目指す者にとって司法試験の合否は、人生の大きな山場といってよいと思われますが、決して唯一の山場というわけではないし、合格にせよ、不合格にせよ、そこで人生が決まったというわけでもありません。言われるまでもないことでしょうが、あえて一言申し上げた上で、今回の司法試験にめでたく合格された人に対し、心から祝意を申し上げたいと思います。

 特に本研究科において法律を学んだ合格者の皆さんに対しては、ここまでよく頑張って健闘されましたと労をねぎらいたいところです。その上で、次のステージに向かって歩み始めていることに、近い場所から応援したいと思っています。ちなみに、本研究科の合格者に対しては、毎年、2つの祝賀の場が用意されます。1つは学生委員会主催の「合格者と語る会」(今年は1120日)であり、もう1つは阪大法曹会主催の「合格者祝賀会」(今年は122日)です。2つの会の開催趣旨については、昨年12月の本欄の「2つの祝賀会」を参照してください。今年もまた両祝賀会に参加させていただき、挨拶をさせてもらいました。

 「合格者と語る会」では、合格者の皆さんに対して、在校する後輩たち(場合によっては、無念にも今回合格できず、来年度に捲土重来を期す人)に自分の経験談を余すところなく語って欲しいとお願いしました。個人の経験談には必ずしも普遍性はありませんが、それでも合格したばかりの人の経験談には説得力がありますし、来年度に合格しようと決意している人を勇気づける力もあります。数多くの経験談に接することによって、来年の受験生たちも、そういう話なら自分たちも後に続くことができると、士気を高めてくれるでしょう。合格者の多くは自分一人の力で合格できたわけではないはずです。であれば、次は後輩たちの力になってあげる番です。

 「合格者祝賀会」では、合格者の皆さんに対して、自分たちを祝うために集ってくれた先輩たち(先に社会で活躍している実務法曹の先生方)に感謝するとともに、その知恵と経験から真摯に学んで自らの糧にするよう努め、培った知恵と経験を活かして社会公共に奉仕して欲しいとお願いしました。結局、いずれの会においても、合格者に対して祝意を示すだけでなく、あれこれ注文を付けたことになります。鬱陶しく感じた人もいたかもしれません。しかし、法曹が社会において尊敬されるべき高い地位にあるのは、司法試験という難関をくぐり抜けたからではなかったはずです(合格の結果それ自体は個人的事項にすぎません)。法曹が尊いのは、法曹が自己利益を超えて他人に奉仕し、多くの人の役に立っていると、社会が認めているからでしょう。

 法曹界が肥大化したエリート意識をもった自己中心的な法曹ばかりになってしまったら、従来、法曹が社会から得てきた地位も敬意も、あっという間に消失するかもしれません。現在は法曹の不祥事が報道されることがあっても、あくまでも例外的事象として理解されています。しかし、公共に思いを馳せる法曹が減少していったら、社会が法曹を見る目も変わってしまい、以前なら「例外」とみなしてくれたところが、逆に「原則」とみなされかねません。だから合格者の皆さんには、日頃から、誰かに何かをしてもらうことを考えるのではなく、誰かに何かをしてあげることを考えて欲しいのです。

 合格者と語る会

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