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研究科長室より

新入生の方々へ

2026/04/08

 2026年4月1日付で、高等司法研究科長を拝命いたしました藤本利一です。これからの2年間、本研究科の運営に携わることとなります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 前任の松本和彦教授が続けてこられた「研究科長室だより」のかたちを引き継ぎ、私からも毎月、ささやかなメッセージをお届けしたいと思います。主として在学生の皆さんに向けたものではありますが、修了生の方々、そして本研究科への進学を志しておられる方々にも、折に触れて目を通していただければ幸いです。研究科長としての立場を踏まえつつも、ときに個人的な思索や問題意識がにじむこともあろうかと思います。その点も含めて、お付き合いいただければありがたく存じます。

 さて、4月は新たな学びの季節です。本研究科にも、多くの新入生を迎えることができました。本来であれば、ここでは別の話題を取り上げるべきかもしれませんが、第1回ということもあり、新入生オリエンテーションでお話しした内容を、少し言葉を補いながらご紹介したいと思います。

 法曹への道は、決して平坦なものではありません。日々の学修は厳しく、またその先にある責任もまた重い。しかし、その道をあえて志し、本研究科の門を叩かれたという事実そのものが、すでに一つの決意の表れであるといえるでしょう。私たちは、その志に対して、まず深い敬意を抱いています。

 本研究科は、「新時代を担う、真のLegal Professionalの養成」を理念として掲げています。ここでいう「真のLegal Professional」とは、単に高度な知識や技術を備えた専門職というだけではありません。社会の複雑な現実を多面的に理解し、理論と実践とを往復しながら問題解決にあたる力、そして何より、公共性への自覚と倫理的な判断力を備えた存在を意味します。

 現代社会は、いま大きな転換の只中にあります。少子高齢化、グローバル化の進展、さらにはデジタル技術の急速な発展などにより、社会の構造そのものが変容しつつあります。こうした変化は、法のあり方にも問いを投げかけます。既存の知識を適用するだけでは対応しきれない場面が、今後ますます増えていくでしょう。

 そのような時代に求められる法曹とは、与えられた枠組みの中で答えを導くだけの存在ではありません。社会の変化を敏感に捉え、新たに生じる問題に対して柔軟に応答し、ときには解決の枠組みそのものを構想しうる存在であることが期待されます。同時に、法の支配を支える公共的担い手として、公正な社会の実現に責任を負うこともまた不可欠です。

 こうした点に関連して、私が新入生の皆さんにお伝えしたのが、「中道」という考え方でした。仏教に由来するこの言葉は、極端に走ることなく、対立する価値のあいだで適切な均衡を探る姿勢を指します。

 法の世界において、私たちはしばしば価値の衝突に直面します。効率と公正、自由と規制、個人の利益と社会全体の利益――いずれも重要でありながら、容易には両立しません。そのような場面で、一方に安易に傾くのではなく、具体的な文脈の中で、どこに均衡を見いだすべきかを問い続けること。そこに、法律家の倫理の核心があると考えます。

 もっとも、「中道」とは単なる折衷や妥協ではありません。単に中間点に落ち着くことではなく、むしろ相反する価値の双方を真摯に見据え、その緊張関係を引き受けたうえで、最も妥当な解を模索する態度です。その意味で、中道とは、思考の深さと責任を伴う、実践的な知恵にほかなりません。

 本研究科での学びは、そのような姿勢を体得する過程でもあります。少人数による双方向型の授業、基礎から応用へと積み重ねるカリキュラム、エクスターンシップなどの実務との接点、そして専任教員による継続的な学修支援。こうした環境の中で、皆さん一人ひとりが、自ら考え、判断し、行動する力を養っていくことになります。

 また、本研究科には多様な背景をもつ学生が集まっています。異なる経験や視点に触れることは、自らの思考の偏りに気づき、より広い視野を獲得する契機となります。この点もまた、「中道」を実践的に理解するうえで、重要な意味を持つでしょう。

 大阪大学の学問は、懐徳堂と適塾という二つの源流を有しています。公共性と学問の自由を重んじた懐徳堂、そして実学と社会への貢献を掲げた適塾。その精神は、現在の本研究科の教育にも確かに息づいています。ここは単なる知識伝達の場ではなく、志を同じくするものが集い切磋琢磨する、社会に開かれた「学びの共同体」です。

 皆さんには、これからの学びの中で、「なぜ法が必要なのか」「法は社会に何をもたらすのか」という根源的な問いに、折に触れて立ち返っていただきたいと思います。そして、その問いに向き合う際には、極端に流されることなく、「中道」の視点を持ち続けてください。

 変化の時代にあって、法の支配を支え、社会の信頼に応えうる法曹の役割は、いっそう重要性を増しています。本研究科での学びが、皆さんにとって実り多いものとなり、公共性と倫理性、そして中道の実践的知恵を備えた法曹へと成長される礎となることを、心より願っております。

 今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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