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修了生からのメッセージ

塩尻善彦さん
◆ プロフィール
  • 2009年3月 神戸大学法学部法律学科卒業
  • 2012年3月 大阪大学大学院高等司法研究科(未修者コース)修了
  • 2012年11月 最高裁判所司法修習(第66期)
  • 2014年4月 農林水産省入省(農村振興局整備部農地資源課)
  • 2020年4月 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 参事官補佐
  • 2022年6月~ 農村振興局農村政策部農村計画課 課長補佐
◆ 司法修習を修了後に国家公務員を選んだ理由についてお聞かせください。
 私は2012年に司法試験に合格した後、そのまま司法修習生となり、修習修了後、国家公務員となりました(それまでに社会人経験もありません)。国家公務員を選んだ理由ですが、ロースクールでの様々な演習やエクスターンシップ、司法修習での実務修習を経験する中で、法律を適用・解釈して事件や課題を解決する立場より、法令の企画・立案やその運用をする立場のほうが、性格的に向いており、また適性を感じたからです。実際に入省前の官庁訪問で職員の方々と話をする中で、政策に関する業務の多くは法律に基づいており、微力ながら自身の知見を活かすことができるのではないかと思い、入省を決意しました。実家が兼業農家であり、その実情もよく知っていたことから、将来にわたって、特に若者が夢をもって農業に参画できるような、魅力あふれる産業とするための仕組み作りをしていきたいと思ったのも理由の一つです。
◆ 今の仕事のやりがいやどんな仕事をされているのか教えてください。
 現在は、農林水産省農村振興局農村計画課という、農山漁村の振興に関する総合的な政策の企画・立案、農地制度(主に農業振興地域の整備に関する法律、農地法の転用関係など)に関する事務や都市農業に関する事務などをつかさどる課の総括補佐として業務に従事しています。なかでも農地制度は、所有、売買、賃貸借、相続など民事法分野とも密接に関連しており、過去の知識も活用しながら業務に励んでおります。
 また、現在、農林水産省では食料安全保障の強化をはじめ将来に向けた諸課題に対応するために、食料・農業・農村基本法の検証作業を行っています。同法は農業分野の憲法とも言える法律であるとともに、食料・農業・農村政策は国民一人ひとりに関わる問題でもあります。私の属している農村振興局などでは、上記の農地制度に関し、食料の安定供給を図る上での優良農地の確保の観点などから、現行の法制度の見直しの検討などを行っています。また、農村の人口減少・高齢化、農業就業者の減少・高齢化などの観点から、今後の農山漁村のコミュニティの維持・強化などに向けた施策の検討も行っているところです。日々様々な制度の仕組みや法制度を精査しながら検討している最中で、まだそれぞれの結論が出ていませんが、そのような政策決定プロセスに従事できていることに非常にやりがいを感じています。
◆ 現在の仕事に、LSでの学びがどう活かされていますか?関係性はありますか?
 国家公務員でもいわゆるリーガルマインドが要求される(若しくは活かされる)場面がとても多いと日々痛感しています。法律改正などの法令業務はもちろんですが、通常業務でも感じます。例えば、国家公務員の業務は文書でやりとりされることが基本で、上司や幹部への説明や議論に際しても概要紙などを作成して行われることが多いです。阪大ロースクールでの双方向型の演習や多数のレポート作成、ゼミでの議論などを経験することにより、法律を前提にものごとを考えることや論理的に文章を作成することの素養が培われたのではないかと思っています。また、阪大ロースクールでは、授業のレポートを添削いただく機会も多かったですが、一部の学期末試験では添削いただいた答案が返却されていたかと思います。返却された添削答案を見ることで、自身の文章の論理構成や表現力などについて客観的に分析し、改善点を洗い出し、ブラッシュアップが図られていたのではないかと思います。
 また、国家公務員は意外とプレゼンの機会が多く、日々上司などに説明する際にも短時間で要領よく説明することが求められますし、国会議員や各種団体、あとは大学などで政策を説明する機会もあります。双方向型の授業では自身の考えを端的に表現することや、やり取りの中で臨機応変に対応することが求められていましたので、そのような経験が役に立っているのではないかと思います。
◆ 国家公務員という仕事の魅力についてお聞かせください。
 ロースクール出身者の国家公務員の道としては、主に、①国家公務員採用試験の合格、②特定任期付職員制度(弁護士経験者)による採用の2パターンがあります。私は、国家公務員採用試験の法務区分枠で国家公務員を目指しました。現在勤務して9年目となりますが、現在のポストを含め6ポスト経験させていただき、その中で様々な政策の企画・立案を経験できたほか、尊敬できる数多くの上司の方々に出会うことができ、国家公務員の道を選んでよかったと思っています。
 国家公務員の仕事の魅力としては、国の政策形成に直接関わることができる点が挙げられるかと思います。国民一人一人の生活に直結するような制度改正もあり、責任感を持って対応する必要がありますが、結実した際には非常にやりがいを感じます。後述する農薬取締法の改正のときもそうでしたが、ほかにも多くの制度改正を経験させていただきました。例えば、米政策を担当していた際に、米袋に記載のある「精米年月日」という表示について、「精米年月(上/中/下旬)」も表示できるよう制度改正を行ったことがありました。消費者は新しいものを手に取り購入する傾向があることから精米年月日が古いという理由で廃棄又は販売外とされ食品ロスが助長されていたことや、精米年月日を起点として早く販売しなければならないという商慣習による多頻度・少量輸送の助長に伴う物流コスト増の問題などが生じていたことから、10日の幅を持たせた表示を可能としたものです。改正後、実際にスーパーで「精米時期 22.04.上旬」などの表示の米袋を見たときは、制度改正が国民生活に直結していることを実感しました。
 また、ジョブローテーションがある点も魅力の一つだと思います。国家公務員は概ね2年おきに部署異動がありますが、ときには想定していなかった分野の法律なども学ぶことになり、自身の視野の広がりにもつながっています。
◆ 法令の立案や政策の形成の面白さについてお聞かせください。
 入省して4年目に農薬取締法の改正作業に従事しました。農薬に関する政府の審議会や官邸本部での議論を経て、農薬の安全性の向上とより効率的な農業への貢献を目的として、法律改正が行われました。農薬は、農産物の安定生産に必要な生産資材ですが、その販売・使用に関し最新の科学的知見を的確に反映し、安全性を向上させるとともに、人の健康や環境への影響を考慮し、安全かつ適正に使用していくことが重要です。農薬取締法は、平成15年に食品の安全性の確保のための改正が行われた後、15年程度大きな改正が行われておらず、上記の観点を踏まえ、最新の科学的根拠に照らして安全性等の再評価を行う制度や農薬の安全性に関する審査の充実、ジェネリック農薬の申請の簡素化などを図る制度が改正により盛り込まれました。
 法律改正が行われる場合には、改正業務に特化するためいわゆる「たこ部屋」が作られ、チームで対応することが多いのですが、このときには作られず、改正作業は3名程度という少人数で対応しました。繁忙期には精神的にも体力的にも非常に厳しい状況ではありましたが、国会の本会議で可決・成立したときや、改正条文が官報に掲載されたときには、この上ない達成感を覚えた記憶があります。農薬は医薬品などと同様、数多くの検査を経て上市されるもので、法律改正後に再評価等がなされた農薬が世に出てくるのはまだこれからになりますが、農薬の登録審査、その後の使用に係る規制までを全般的に見直すことができ、よりよい制度構築ができたのではないかと思っています。なお、改正に当たっての「最新の科学的知見を的確に反映」するというのは、ロースクールで学修した環境法の「未然防止原則」や「予防原則」の考え方なども踏まえてのものでしたし、また、罰則規定の見直しや経過措置の整備も行いましたが、その際には刑法などのこれまでの学修内容が非常に役立った記憶があります。
◆ ロースクールで学ぶことの意義についてお聞かせください。
 私は、法学部出身ですが、未修コースに進み、3年間阪大ロースクールで法律の基本から改めて学修させていただきました。どの先生も学生に親身であり、授業後に1時間近く学生の質問に対応していただいていたことなどもよく目にしました。また、ロースクールの特徴として双方向型の授業がありますが、90分の授業内容に対して事前にその3、4倍程度の時間をかけて予習することもありました。多くの時間をかけて予習した分、授業の際には先生とのやりとりに注力することができ、その場で疑問を解消することができたように記憶しています。また、第一線で活躍されておられる、弁護士、検察官、裁判官の方々から実務的な観点を踏まえた授業を受けられるのもロースクールならではのものかと思います。ほかにも、自主ゼミを組んで学生同士で議論ができる環境が整っているのも特徴の一つではないでしょうか。  私は環境法のゼミに属していました。ゼミの中で同級生の答案を共有し、講評いただくような内容だったかと記憶していますが、ほかの学生の答案を読むことで自分の立ち位置を客観的に判断することができ、また、何が足りていないかを先生から講評いただくことで、改善点が明確化された結果、環境法を選択科目として得意分野にすることができました。さらに、阪大ロースクールでよかった点は自習室の環境が整っていた点です。24時間開放されていただけでなく、一人一人に自習机が割り当てられており、自席で学修に集中することもできますし、同級生たちとよく雑談のような形で授業内容などを議論することもありました。そのような雑談の中で気づきを得ることも多かったように思います。
◆ 今の仕事について後輩にアピールしたいことはありますか。
 繰り返しになってしまいますが、国家公務員の仕事は国の政策に直結するものであり、非常にやりがいを感じるものです。また、法律というこれまで学んできた分野を軸に、専門性を備えたジェネラリストとして、活躍できる分野は多岐にわたっています。霞ヶ関の業務はどうしてもネガティブに報道されがちですが、優秀で尊敬できる職員の方々も多数在籍しておられ、自身の経験を積む場としてもとてもよい環境だと思っています。
 なお、私は経験していませんが、海外留学や地方出向、民間出向などの機会も設けられていることから、自身の強みを活かしつつそれを政策に反映できる環境も整っているかと思います。
◆ 後輩へのメッセージをお願いします。
 私は司法修習修了直後に国家公務員という道を選んだことから、法曹としての経験はありません。ただ、これまで9年程度国家公務員という仕事をしてきて、ロースクール在学中には想像していなかったような様々な経験をすることができ、よき同僚や上司にも多く出会うことができました。時々法曹を選んでいたらどうだったのだろうかと想像することもありますが、私としては今の選択をしてよかったと思っています。この記事を読んでいただいた方で、国家公務員という働き方について少しでも興味を持っていただける方がいらっしゃれば幸甚です。
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