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研究科長室より

法科大学院の存在意義を考える

2023/02/03

 年が明け、2023年がスタートして1ヶ月以上が経過したというのに、相変わらず旧年の課題と向き合う毎日を送っています。光陰矢のごとし。先の問題が解決する前に、次の問題が現れるといった事態の繰り返しで、なかなか厄介です。しかし積み残しの課題の前で身を震わせているのは、決して私だけではないでしょう。しかも、それは個人に限られる話ではなく、組織や制度の中にも見受けられます。現在も年来の課題に呻吟している組織・制度は少なくありません。他ならぬ法科大学院制度がその一例と言えましょう。

 もう忘れてしまった人もいるかもしれませんが、法科大学院制度は、司法制度改革の一環と位置づけられ、18年前に創設されました。改革の思想を表した司法制度改革審議会の意見書は、法科大学院を「新たな法曹養成制度」の「中核を成すもの」と位置づけ、次のように述べています。「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けるべきである。」今でも思い起こされるべき提言です。

 本研究科も制度創設とともにスタートしたので、本研究科の歩みは法科大学院制度の歩みと足並みを揃えています。しかしどちらの歩みも順風満帆ではありませんでした。ここで苦難の歴史を語るのは、必ずしも適当と思われないため、あえて言及いたしませんが、少なくとも本研究科が発足したときは、上記の提言をリアリティあるものとして受け入れていたことは指摘しておきたいと思います。本研究科はもちろん、法科大学院は「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクール」であると、誰もが躊躇なく、そう語っていました。

 スタートした頃の本研究科は、法学未修者コースの人が主体だったこともあって、学生の顔ぶれが実に多種多様でした。それに学生の平均年齢も今よりかなり高めでした。他学部・他研究科出身の人もたくさんいました。法学部出身者も決して少なくなかったはずですが、研究科の雰囲気は明らかに法学部とは異なっていました。良くも悪くも、主体的に行動し、積極的に意見を述べる学生が比較的多いと感じました。法学部のカルチャーに浸っていた教員(私のこと)には、面食らうことも多かったのですが、他方で、彼らと一緒に成長しようという意欲も掻き立てられました。

 あれから18年が経ち、制度として、落ち着いてきた面も確かにあります。しかし「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクール」の創設という課題は今も課題であって、相変わらず解決を迫られています。年来の課題を果たすため、法学部の法曹コースと連携した5年一貫の法曹養成も始まりました。来年度からは在学中受験も始まります。これらの試みが、年来の課題の解決につながるのか、危惧されるところがないわけではないものの、関係者の一人として、無責任な態度はとりたくないと思っています。

 本来なら、ここで力強いメッセージを送らなければならないところです。たまたま先日、伊藤眞東大名誉教授のコラム「法科大学院を想う-司法制度改革意見書が語った夢は潰えたのか」書斎の窓685号32頁(2023年1月)を読み、「喜寿を超えた元法科大学院教員の願い」に接しました。現役教員に委ねられた責任は重いということを改めて感じ入りました。「新時代を担う、真のLegal Professionalsの育成」という本研究科の教育理念は、きれいごとだと思う人もいるかもしれませんが、これをリアルに感じさせるのが自分の役割であると考えています。

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